コラム

電断対策の基本から最終手段まで -産業用PCの安定稼働を守る技術とは

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電断対策の基本から最終手段まで -産業用PCの安定稼働を守る技術とは

突然ですが、皆さんの職場で停電が発生したときに備えて、どのような対策を取られていますか?

家庭であれば、停電になってもせいぜい冷蔵庫の中身が心配になったり、
スマホの充電ができなくなったりする程度かもしれません。
しかし、製造ラインや監視システム、医療機器などの重要なシステムが停電で止まってしまうと、その影響は計り知れません。

今回は、産業用PCや組み込み向けシステムにとって重要な「電断対策」について、OS・ハードウェア、
そして最終的と思われる解決策まで、段階的に解説していきたいと思います。

電断が引き起こす問題とは

まず、なぜ電断対策が重要なのか整理してみましょう。

電源が突然断たれることで発生する主な問題は以下の通りです。

  • データ損失・破損
    作業中のデータが保存されずに失われるのは当然として、
    より深刻なのはファイルシステムやデータベースの破損です。
    書き込み途中でシャットダウンされると、既存のデータまで読み取れなくなる可能性があります。
  • システムファイルの破損
    OSのシステムファイルが破損すると、システム自体が起動しなくなります。
    復旧には専門知識と時間が必要で、ダウンタイムが長期化する原因となります。
  • ハードウェアの損傷
    稀ではありますが、電源の急激な変動によって、ハードウェア自体が物理的に損傷することもあります。

これらの問題は、製造業では生産停止、インフラ系では社会機能の停止、医療現場では患者の安全に直結する深刻な事態を招く可能性があります。

OSレベルでの対策:できることと限界

ファイルシステムの工夫

・ジャーナリングファイルシステム

NTFSやext4などのジャーナリングファイルシステムは、ファイルへの変更履歴を記録することで、電断後の復旧を容易にします。
しかし、これはあくまで「復旧しやすくする」技術であり、データ損失を完全に防ぐものではありません。

・書き込みキャッシュの無効化

WindowsやLinuxでは、ストレージへの書き込みキャッシュを無効化することで、データがメモリ上に残ったまま失われるリスクを軽減できます。
ただし、これによりシステム全体のパフォーマンスは低下します。

UWF(Unified Write Filter)の活用

・組み込み向けWindowsの強力な機能

Windows10やWindows11 IoT Enterpriseには、UWF(Unified Write Filter)という強力なライトフィルター機能が搭載されています。
この機能は、ストレージ上への書き込みを一時的にメモリ上で管理し、電断時にはすべての変更を破棄することで、システムを常に初期状態に戻すことができます。

・UWFの仕組み

UWFを有効にするとWindowsシステムはストレージを「読み取り専用」として扱い、すべての書き込みはオーバーレイ(メモリ上の仮想領域)に保存されます。
再起動時にはオーバーレイが破棄され、システムは完全にクリーンな状態で起動します。

・UWFの効果と制限

この機能により、電断による系統的なファイル破損は完全に防げますが、作業データも同時に失われるため、データ保存が必要なアプリケーションでは別途対策が必要です。
また、WindowsUpdateなどのシステム更新時には一時的にUWFを無効化する必要があります。

自動保存機能の活用

アプリケーションレベルでは、定期的な自動保存や一時ファイルの活用により、作業データの損失を最小限に抑えることができます。
しかし、これも根本的な解決策ではありません。

OSレベル対策の限界

これら上記の対策は確かに有効ですが、電断の瞬間に発生する問題を完全に防ぐことはできません。
特に、重要なシステムファイルの書き換え中に電断が発生した場合、OS自体が起動しなくなるリスクは残ります。

ハードウェアレベルでの対策:一歩進んだ保護

コンデンサによる瞬断対策

・電解コンデンサ

電源回路に大容量の電解コンデンサを配置することで、数ミリ秒から数十ミリ秒程度の瞬間的な電源断をバックアップできます。
これは、電源の一時的な不安定さには効果的ですが、完全な停電には対応できません。

バッテリーバックアップRAM

・重要データの一時保存

一部の産業用PCでは、バッテリーでバックアップされたRAM(BBRAM)を搭載し、システム設定や重要なデータを保存します。
これにより、電断後の復旧時間を短縮できますが、容量に限界があります。

SSDの内臓キャパシタ

・Power Loss Protection機能搭載SSD

エンタープライズ向けだけでなく、組み込み向けSSDにも内臓キャパシタによるPower Loss Protection(PLP)機能を持つ製品があります。
この機能により、電断時にも書き込み中のデータをフラッシュメモリに確実に退避させることができます。

・採用が進まない理由

理論的には非常に効果的な機能ですが、実際の採用は限定的です。
主な問題点として、高コスト以外にも以下があります。

  • 温度特性の問題
    キャパシタは温度変化に敏感で、産業用途の広い動作温度範囲での安定性に課題があります。
  • 経年劣化
    キャパシタの容量は時間とともに低下し、数年後には十分な電力を保持できなくなる可能性があります。
  • サイズ制約
    小型の組込みシステムでは、キャパシタを搭載したSSDのサイズが制約となる場合があります。
  • 検証の困難さ
    PLP機能が正常に動作するのかの検証が困難で、実際の電断時に期待通りの動作をするか不安が残ります。
  • 故障時の発火
    一部の製品では、キャパシタにタンタルコンデンサを使用していました。
    タンタルコンデンサは故障時にショートモードになることから、INNINGS製品では採用を見送っています。

究極の対策:UPS(無停電電源装置)

UPSの基本原理

UPS(Uninterruptible Power Supply)は、内臓バッテリーにより、停電時でも一定時間システムへの電力供給を継続する装置です。
これにより、以下のことが可能になります。

  • システムの安全なシャットダウン
  • 短時間の停電であれば無停止での運用継続
  • 電源品質の安定化(ノイズ除去、電圧安定化)

UPSの種類と特性

■常時商用給電方式(Off-line UPS)

平常時は商用電源をそのまま供給し、停電時のみバッテリー電源に切り替わります。
コストは安いですが、切り替え時間(数ミリ秒)があります。

■ラインインタラクティブ方式

常時商用給電方式に電圧調整機能を追加したもので、電圧変動にも対応できます。
中小規模のシステムに適しています。

■常時インバータ給電方式(On-line UPS)

常時バッテリーからインバータを通して電力を供給するため、切り替え時間がゼロで、電源品質も安定しています。
重要なシステムには必須です。

適切なUPS容量の選定

UPS容量選定には、以下の要素を考慮する必要があります。

  • 消費電力の把握
    システム全体の消費電力(CPU、ストレージ、周辺機器含む)を正確に測定し、安全率を考慮した容量を選定します。
  • バックアップ時間の選定
    完全なシステムシャットダウンに必要な時間、または電源復旧を待つ時間を想定して容量を決定します。
  • 将来の拡張性
    システムの拡張予定も考慮し、余裕を持った容量選定が重要です。

UPSの課題

電断対策には、ほぼ完ぺきなUPSではありますが、もちろん課題もあります。
搭載される二次電池の種類にもよりますが、
1.定期的な電池交換が必要
2.保管時の充放電管理が必要
3.体積と重量
など、組込みする機械や場所によっては、採用できない用途も多く存在するのが実情です。

INNINGS製品との組み合わせ

INNINGS製品の特長である「保守費用の低減」「ダウンタイムの最小化」は、適切なUPSとの組み合わせにより、さらに効果を発揮します。

小型/省電力設計のメリット

INNINGS製品の小型設計により、省電力のUPSでも十分なバックアップ時間を確保でき、導入コストを抑制できます。
INNINGS製品の多くのCPUボードにはUPS I/Fを設けており、NIPRON社様のOZP-120-12-*B*-*電源とバッテリパックBS24*-H12/2.0L-Tの組み合わせのような小型UPSをお使いいただくことが可能です。
もちろん同等の仕様を満たすUPSの接続も可能になっています。
*NIPRON社様該当製品
https://www.nipron.co.jp/product_detail/index.cgi?p=20315703

例えば鉄道関連設備のお客様では、駅務機器システムにINNINGS製品と小型UPSを組み合わせて導入いただいております。
駅という公共性の高い場所では、システム停止による影響が非常に大きく、特に券売機や改札システムの停止は乗客サービスに直接影響します。
UPS導入前は、月に数回発生する瞬停により、駅務機器が停止し、その都度駅員による再起動作業が必要でした。
また、停電時のデータ損失により、売上データの再集計や取引記録の復旧作業に数時間を要することがありました。

INNINGS製品とUPSの組み合わせにより、これらの問題を完全に解消。
現在では台風などの悪天候時にでも無停止での運用を継続し、安定した駅務サービスの提供を実現されています。
また、保守担当者の緊急出動回数も大幅に減少し、運用コストの削減にも貢献しています。

まとめ:段階的な対策の重要性

電断対策は、一つの技術だけで完ぺきに解決できるものではありません。
しかし、適切な段階的アプローチにより、大幅にリスクを軽減することができます。

1.基本対策:OSレベルでのファイルシステム設定やアプリケーション設定
2.中級対策:ハードウェアレベルでの電源監視や瞬断対策
3.最終対策:UPSによる完全な電源バックアップ

特に、ミッションクリティカルなシステムにおいては、UPSの導入が最も確実で効果的な解決策となります。
初期投資は必要ですが、システム停止による損失を考えれば、十分に回収可能な投資と言えるでしょう。

私たちINNINGS製品は、これらの電断対策と組み合わせることで、より安全で信頼性の高いシステムを構築することができます。
電断対策でお困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
システム全体を見据えた最適な提案をさせていただきます。

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